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大阪地方裁判所 平成11年(ワ)12217号 判決 2000年7月07日

原告

日産火災海上保険株式会社

被告

坂本隆

ほか三名

主文

一  被告らは連帯して、原告に対し、金一億〇一三四万八四九六円及びこれに対する平成一一年一〇月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告らの負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文と同じ。

第二事案の概要

一  訴訟の対象

民法七〇九条(交通事故、人身損害)、自賠法三条、民法七一九条、立替払契約

二  争いのない事実及び証拠上明らかに認められる事実

1  交通事故の発生(甲一)

(一) 平成八年九月一日(日曜日)午前〇時一五分ころ(くもり)

(二) 奈良市佐紀町七一三番地

(三) 被告齋藤栄治(昭和五一年九月二四日生まれ、当時一九歳)(以下、被告栄治という。)は、軽四輪乗用自動車(和泉五〇ふ六四〇五)(以下、被告齋藤車両という。)を運転中

(四) 山川亜紀子(昭和五一年九月一一日生まれ、当時一九歳)は、被告齋藤車両に同乗中

(五) 泉太一は、普通乗用自動車(奈良五八や五〇八〇)(以下、泉車両という。)を運転中

泉照夫は、泉車両を所有

(六) 被告齋藤車両と泉車両が交差点で出会い頭に衝突した。

2  事故態様(甲九ないし一七、弁論の全趣旨)

被告栄治は、南北道路を南に向かって走行中、東西道路と交わる交差点の手前で、対面信号が赤色点滅信号であることを確認し、減速した。ところが、いったん停止をしないで、また、左右から進行してくる車両を十分に確認しないまま、交差点直前から加速し、時速三〇kmで交差点に進入した。そして、交差点のほぼ中央付近で、左(東)から進行してきた泉車両の前部に衝突した。

泉太一は、東西道路を西に向かって走行中、南北道路と交わる交差点の手前で、対面信号が黄色点滅信号であることを確認した。交差点に進入する直前で、右前方約八mの地点を右(北)から左(南)に向かって進行している被告齋藤車両を見つけ、危険を感じ、急ブレーキをかけた。しかし、交差点のほぼ中央付近で、被告齋藤車両の左側面に衝突した。

これらの事実によれば、被告栄治と泉太一は、交差道路の安全を十分に確認しないで交差点に進入した過失がある。したがって、民法七〇九条に基づき、損害賠償義務を負う。

過失割合は、後記のとおりである。

3  責任(弁論の全趣旨)

本件事故の責任については、泉太一と被告栄治が連帯して、不法行為(民法七〇九条、七一九条)に基づき損害賠償義務を負う。

泉照夫は、泉車両の所有者であり、泉太一と連帯して、自賠法三条に基づき損害賠償義務を負う。また、泉照夫と原告は、泉車両について、自動車保険契約を締結していた。

4  傷害、後遺障害(甲三、四、弁論の全趣旨)

山川亜紀子は、本件事故により、頸椎骨骨折、胸髄損傷による両下肢完全まひ、膀胱直腸障害などの傷害を負い、症状固定したが、後遺障害別等級表一級三号の後遺障害が残った。

5  損害(甲三、四、弁論の全趣旨)

山川亜紀子、その両親である山川雅久、山川とし子は、別紙一のとおり損害を被った。

6  立替払契約の締結(甲二)

被告齋藤智(以下、被告智という。)と被告齋藤智子(以下、被告智子という。)は、被告栄治の両親であるが、原告に対し、平成八年九月二〇日、本件事故によって生じた損害のうち被告栄冶が負担すべき八割相当額を連帯して負担すること、原告にその八割相当額を立て替えて支払ってもらうことを約束した。

7  保険金の支払い(甲三、四、七、八)

原告は、泉照夫との間に締結していた自動車保険契約に基づき、平成一一年一〇月一四日までに、山川亜紀子に対し一億〇〇六八万五六二〇円、山川雅久に対し二五〇万円、山川とし子に対し二五〇万円の合計一億〇五六八万五六二〇円を支払った。

ただし、内金二四〇万円は、泉車両と被告齋藤車両の各自賠責保険から回収した。

また、泉車両と被告齋藤車両の自賠責保険金としてそれぞれ三〇〇〇万円が支払われている。

三  原告の主張

1  被告坂本の責任

被告坂本隆(以下、被告坂本という。)は、被告齋藤車両の運行供用者であり、被告栄治と連帯して、自賠法三条に基づき損害賠償義務を負う。

2  過失割合

本件事故の過失割合は、泉太一を二、被告栄治を八とすることが相当である。

3  結論

したがって、原告は、被告坂本及び被告栄治に対し民法七〇九条、自賠法三条、民法七一九条に基づき、被告智及び被告智子に対し立替払契約に基づき、総損害一億六五六八万五六二〇円のうち被告らが負担すべき割合である八割相当額である一億三二五四万八四九六円から既払分である自賠責保険金三一二〇万円を控除した一億〇一三四万八四九六円の支払を求める。

四  争点と被告らの主張

1  争点

運行供用者、過失相殺

2  被告坂本の主張

被告坂本は、被告齋藤車両の所有者ではなく、運行供用者責任を負わない。

つまり、被告坂本は、自動車の修理販売業を営み、オークションの会員となっていて、安価に自動車を購入することができるが、知人の被告智から、息子被告栄治のために自動車を購入してほしいと頼まれた。そこで、被告栄治をオークション会場に連れていき、被告栄治が希望する自動車(被告齋藤車両)を落札した。落札した当日、被告栄治に被告齋藤車両を引き渡した。その日から本件事故当日まで、被告栄治が被告齋藤車両を使用していた。また、被告栄治が落札代金を支払うことになっていたが、ローンを利用できなかったため、本件事故発生時までには支払っていなかった。

このように、被告坂本は形式的に名義を貸与したにすぎず、被告栄治が被告齋藤車両の所有者である。被告坂本が被告齋藤車両の運行を支配していないし、運行から得られる利益もない。したがって、被告坂本は運行供用者ではない。

3  被告智、被告智子、被告栄治の主張

本件事故の過失割合について争う。

第三運行供用者性に対する判断

一  証拠(甲六、八、一三、乙一ないし三、被告坂本の供述)によれば、次の事実を認めることができる。

1  被告らの関係

被告坂本と被告智は以前からの親しい知り合いである。

被告坂本は、大興自動車の屋号で、自動車の修理販売業を営んでいる。そのため、大阪日産オートオークションの会員になっており、オークションで自動車を安価に購入することができる。会員でなければオークションで落札することはできない。また、会員のほかに、会員が同伴した者なら、オークション会場に入場することができる。オークションで購入した自動車の代金の支払いについては、落札後三日以内に現金で支払い、それから一五日以内に前所有者から名義変更(車検証の所有者を変更)することになっていた。ただし、実際上は、若干の猶予期間をもらっていた。

被告栄治は、本件事故当時、一九歳であった。

2  被告齋藤車両購入の経過

被告坂本は、平成八年八月下旬ころ、被告智から、被告栄治が七月二六日に自動車の運転免許を取得し自動車の購入を希望しているから、オークションに連れていってもらい、自動車を購入してほしいと依頼された。また、被告栄治には資力がないので、二〇万円程度の自動車を購入してほしいとのことだった。

そこで、八月二六日、被告坂本と被告栄治は、いっしょにオークション会場に行った。被告栄治は、オークション会場で、展示された自動車を見て、平成五年式のセルボ(被告齋藤車両)が気に入った。車両価格が二八万円であり、諸費用を加えても三〇万円以内で済むことから、被告齋藤車両を購入することに決めた。

しかし、被告栄治はオークションの会員ではなく、自分で落札することができないため、被告坂本が、被告齋藤車両を落札した。被告坂本は、ほかに、自分の営業のため、五台の自動車を落札した。

被告坂本と被告栄治は、当日、被告齋藤車両の引き渡しを受け、被告坂本が経営する工場に戻ったが、被告坂本は、被告栄治に対し、そこで被告齋藤車両を引き渡した。被告栄治は、被告齋藤車両を運転して自宅に帰った。その日から本件事故が発生するまで、被告栄治が被告齋藤車両を使用していた。

ところで、落札した当日の夜、被告坂本は、被告智から、代金の支払いについて、被告栄治が現金で支払うことができないため、ローンを利用したいと伝えられた。そこで、落札した翌日の八月二七日、被告栄治名義でローンを申し込んだ。ところが、審査が通らず、ローンを利用することができなかった。そのため、被告坂本は、被告智に対し、ローンを利用できなかった旨を連絡し、ほかの方法で支払いをすることになった。被告坂本は、被告栄治が支払期限までに代金を用意することができないときは、いったん立て替えて支払いをしようと考えていた。

しかし、代金の支払いがないまま、したがって名義変更もされないまま、本件事故が発生した。

3  本件事故後の経過

九月一日未明に本件事故が発生した。

被告坂本は、本件事故当日か翌日に、被告智から、本件事故が発生したこと、被告齋藤車両が解体業者に持ち込まれていることなどの連絡を受けた。しかし、まだ名義変更をしていないことから、被告智に対し、被告齋藤車両からナンバープレートを取り外し、写真を撮ってくるように指示をした。

さらに、九月二日、被告智といっしょにオークション会場に行き、被告齋藤車両の代金を立て替えて支払った(その後、被告栄治が分割して全額を返済した。)。その後、軽自動車検査協会に行き、同日付けで、被告齋藤車両の所有者及び使用者を被告坂本とする旨の名義変更手続をした。また、自賠責保険証明書の再交付を受けた。

被告坂本は、前所有者やオークションの運営に迷惑をかけないように、急いでこれらの手続をした。

二  これらの事実をもとに検討する。

確かに、被告坂本は、オークションで被告齋藤車両を落札した後、すぐに被告齋藤車両を被告栄治に対し引き渡しているし、その後は、被告栄治が本件事故が発生するまで被告齋藤車両を使用しているから、被告齋藤車両に対する事実上の支配を失ったようにも思える。また、被告坂本は、被告栄治がオークションで被告齋藤車両を購入できるように、形式的に被告坂本の名義を利用させたという一面があることは否定できない。

しかし、本件では、それ以外に、次の事実も認められる。

つまり、オークションでは本来会員だけが自動車を落札できることから、被告坂本は、被告齋藤車両を落札し、その引渡しを受け、被告栄治が支払えないときには立て替えて代金を支払うつもりでいたほか、本件事故が発生した後には、立て替えて代金を支払い、あえて自分の所有名義に変更したというのである。そうであれば、前所有者らに迷惑をかけないためにしたのだとしても、まさに、対外的には、被告坂本が被告齋藤車両を管理支配していたというべきである。

さらに、被告坂本は、親しい友人である被告智から、免許を取得してわずか一か月の当時一九歳の息子である被告栄治のために自動車を落札してほしいと依頼され、これを引き受けて、被告齋藤車両を落札したうえ、ローンの申込みもしていたが、ローンの審査が通らず、いまだ代金の支払を受けていなかったというのである。そうであれば、まず、被告坂本は、代金の支払いを求め、支払いがないときには被告齋藤車両の返還を求めることができたはずであるから、実質的には所有者と変わらないということができる。次に、ほとんど運転経験がない当時一九歳の知人の息子に自動車を引き渡すのであるから、任意保険を締結させたりするなどの指導をすることが十分に可能であったし、指導すべき立場にあったというべきである。

これらの事実によれば、被告坂本は、被告齋藤車両を事実上支配、管理し、また、監督すべき立場にあったというべきである。したがって、運行供用者であると認められ、山川らに対し、自賠法三条に基づき損害賠償義務を負う。

第四過失相殺に対する判断

一  前記認定事実によれば、本件事故の責任については、対面信号が赤色点滅信号であるにもかかわらず、一時停止も十分な減速もしないで、さらには、交差道路の安全を確認しないで交差点に進入した被告栄治の責任がきわめて大きいことは明らかである。

二  したがって、被告栄治と泉太一の過失割合は、八対二とすることが相当である。

第五結論

したがって、被告栄治は、山川らに対し、民法七〇九条に基づき損害賠償義務を負う。被告坂本は、山川らに対し、自賠法三条に基づき損害賠償義務を負う。

泉太一は、山川らに対し、民法七〇九条に基づき損害賠償義務を負う。泉照夫は、山川らに対し、自賠法三条に基づき損害賠償義務を負う。

泉照夫の付保会社である原告は、山川らに対し、本件事故の損害賠償債務として、損害額一億〇五六八万五六二〇円を支払った。

したがって、被告栄治は民法七〇九条、民法七一九条に基づき、被告智と被告智子は立替払契約に基づき、被告坂本は自賠法三条、民法七一九条に基づき、原告に対し、総損害一億六五六八万五六二〇円のうち被告らが負担すべき割合である八割相当額一億三二五四万八四九六円から、既払金である自賠責保険金三一二〇万円を控除した一億〇一三四万八四九六円を支払う義務がある。

(裁判官 齋藤清文)

11―12217 別紙1 山川の損害

1 治療関係費 261万6084円

レントゲン代 1万3720円

2 症状固定後の治療 100万0000円

3 文書費 3万5440円

4 入院中の付添看護費 187万5500円

5 将来の付添看護費 3101万5437円

6 入院雑費 44万3300円

7 搬送費 3万0700円

8 通学費 8万1000円

9 家屋改造費 1388万5000円

昇降機メンテナンス費 151万6359円

テラス工事費用 14万5000円

10 引っ越し費用など 116万6403円

11 車いす代 379万1192円

タイヤ、チューブ代 21万5386円

12 自動車代 454万1691円

13 介護ベッド 33万2600円

14 おしめ、カテーテル等医療器具

ズボンのリフォーム代

トイレロホクッション 60万0000円

15 留年費用 98万8000円

16 遺失利益 6466万3949円

17 アルバイト料 36万0000円

18 慰謝料 入院分 350万0000円

後遺障害分 2650万0000円

19 山川雅久の慰謝料 250万0000円

20 山川とし子の慰謝料 250万0000円

小計 1億6430万6761円

損益相殺 国民年金 -112万9125円

弁護士費用 250万7984円

合計 1億6568万5620円

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